第29回若竹能@矢来能楽堂

先日の佐久間さんのWSでの宣伝(7月8日のエントリ参照)に見事引っかかり(なんて失礼ですね)、行ってまいりました。

『鉄輪』の見どころ  武蔵野大学名誉教授  増田 正造

仕舞
簓之段   坂 真太郎
源氏供養  観世 喜之

狂言 隠貍
シテ(太郎冠者) 高野 和憲
アド(主)    深田 博治

能 鉄輪
シテ(都の女/鬼女) 佐久間 二郎
ワキ(安倍清明)   殿田 謙吉
ワキツレ(上京の男) 芳賀 俊嗣
間(貴船の社人)   深田 博治
大鼓  柿原 崇志
小鼓  鵜澤 洋太郎
太鼓  小寺 真佐人
笛   一噌 庸二

               (後見・地謡は省略)


「解説」
センセ、ネタバレですってば。(苦笑)
売店では台本(謡本)を売ってますし、各種あらすじ解説本もある、ある意味、妙なスタンスのお芝居ですよね、能って。
へぇポイントだけ列記します。
陰陽師ブーム(?)で「丑の刻参りセット」なるものが売られているらしい。しかも結構リアルな値段(7500円くらい?)。もう一桁安ければおもちゃだし、高ければ手が出ない。これがあれば神社へ出向かずとも、マンションの一室でOKという優れもの。いかがですか、奥様(笑)。
あと、「浴室に落ちた一本の髪の毛は運命よりも恐ろしい」て、アダルティーな(←勘ぐりすぎ)ことも。(作家の誰かが言ったらしいです。)
なかなかユニークなお話でした。


仕舞 簓之段
先日のWSで佐久間さんのヘルプをしていた方ですね。あの時は気付きませんでしたが、強い、しっかりした声ですね。動きはややかたい、けれど勢いがあって、若いなぁっ(←自分より年上らしき人に何て書き方)。『自然居士』の一部分とのことですが、見たい曲の一つです。


仕舞 源氏供養
メロディーがきれいですねぇ。イコール、難しそう。源氏物語の各段の名前が盛り込まれていて、香り高い風雅な曲だと思いました。シテは紫式部らしいのですが、源氏の君が、女達を思い出しながら舞っているようにも見えました。


狂言 隠貍
太郎冠者が貍捕りをしているとの噂を聞き、主が問いただす。しかし太郎冠者はしらばっくれるので、主は太郎冠者に市で貍を買ってこいと命じる。太郎冠者は昨晩捕まえた貍を市へ持っていって、売ってしまおうとする。そこへ様子を見に来た主人に見つかり、酒盛りになり・・・というあらすじ。


理不尽な点はいくつも(ええ、狂言ですから)。何故貍を売ってしまおうとするのか、買ってきた事にすればいいのに、とか。何故道端で酒盛り、とか。主が頑なに手酌なのはどうして、とか。ま、置いといて。(笑)
見所はズバリ、「貍」です。グレーのぬいぐるみ!Mr.Bean(だっけ?)の持っていたような。ある意味衝撃的でした。
そして、あの「兎」の小舞。可愛い!「かしらに二つぷっぷっと、細ぅて、長ごぅて」でしたっけ?きゃい〜ん、かわいいのね〜〜ん。(←ナニモノ?)
万作家の若いお2人、この2人だけで見るのは初めてです。途中少しだれてしまった気もしますが、溌刺としていて良かったと思います。


能 鉄輪
自分を捨てた夫とその若い後妻に復讐するため、鬼になりたいと貴船神社へ丑の刻参りに来る都の女(前シテ)。ある夜、貴船の社人(間)が授かった霊夢をその女に告げる。即ち「身には赤き衣を着、顔には丹を塗り、頭には鉄輪を戴き、三つの足に火を灯し、怒る心を持つならば、忽ち鬼神と御なりあろうずる」とのお告げ。女はそれは自分では無いといいつつも、段々鬼の様相を呈し、社人は恐れ逃げてゆく。<中入>下京の男(ワキツレ)が、悪夢が続くと、陰陽師の安倍清明(ワキ)に相談に来る。清明は男の命の危険を諭し、身代わりの人形を用意する。そこへ鬼女(後ジテ)となった先の都の女が現れ、夫と後妻(の人形)を見つけ、打ち据えようとする。


有名な逸話でもあり、夏にぴったりのホラー。髪の毛を手に絡めとり打つ所とか、台詞とか、リアルに恐いですが、心理的にもかなりきてます。先の解説でもあったのですが、自分がこの先妻の立場だとして、先にやっつけるのは夫か、若妻か、のアンケート結果・・・リアルですねぇ、恐いですねぇ。


ただでさえ狭い矢来能楽堂の、脇正面の橋掛かりに近い席だったので、装束&面をくっきり見ることができました。
前シテは笠を被り、撫子や桔梗の可憐な草花が描かれた縫箔の上に、金糸銀糸の、でも結構渋めの唐織を壷折に着ていました。面は泥眼。黒い笠から真っ白な肌が見え、眼は遠くを見ている感じで、ぞくりと美しい。
後シテは、赤と金の摺箔、水色地に丸紋の縫箔を腰巻に。面はなんと生成!!解説でそう仰っていて、ちょっとドキドキしながら見たのですが、意外に品のある面でした。(以前WSで見せていただいたのは、ホント引いちゃうような生々しいものでしたので。)顔が赤くなくて、古くて、薄汚れた感じ。疲れてぶすっとしている中年女性という雰囲気。ただ、眼が、とても悲しそうだった。爆発寸前。悲しさと、悔しさと、怒りとで。そんな面でした。生成、中成、真成と進む、鬼への3段活用の第1歩、ということは、不可逆的な変容てことですよね。もう、後戻りできない、そんな決意もあるような。恐いよりも、可哀そうに見えてしまいました。


女は後妻を打ち据え、さて夫へ、と向き直ったところで三十番神(毎日一人ずつ交代する神様らしい)の守りに阻まれ、退散するのですが・・・「時節を待つべしや、まづこの度は帰るべし」だなんて、つまり“I’ll be back!”てことですよね。そして「目に見えぬ鬼となりにけり」だなんて、やっぱ鬼になっちゃうのか〜。でも何となく、この鬼女の方を応援したくなるような。(笑)


大鼓の音が堂々と、凛々しかった。小鼓はピチピチと跳ねるように勢いがよくて。そういうのも面白い組み合わせだな、と。
しょーもない感想(ツッコミ)としては、鬼になる方法をアドバイスする貴船の社人ってどうよ、とか。下京の男、ホント冴えねー(笑)とか。安倍清明はやっぱ萬○さまじゃなきゃ(←バカです)とか。もっと激しく、打つべし、打つべし、打つべし(←アホです)とか。


ところで、後シテの扇が負修羅扇だったのは何故だろう?平家物語に元ネタがあるらしいから、そのためでしょうか?う〜ん、ちょっと無粋に見えました。




事前に詞章をしっかり読み込んでいったのと、WSで佐久間さん自身を知っているのとで、体調が悪かった割にはしっかりと拝見できました。
さてもさても、若いなぁっ(←また言ってる)。これからも頑張ってください、期待しています、と言葉を残したくなる会でした。(←オマエ何様?な言い方ですが)