第1回バックステージツアー@銕仙会能楽研修所

行くと思ったでしょ?


以前紹介した、銕仙会の柴田稔氏の計画による能楽堂バックステージツアー。
(ブログは→能楽師・柴田稔 Blog


もう、出血大サービスで、色々見せてくれて、話してくれて、体験させてくれました。
写真撮り放題。
サイン貰い放題?(笑)
盛り沢山の内容でした。


配られたプログラムは次のようになっていました。

1.バックステージツアー
  ・舞台見学、見所から鏡の間、楽屋へ
  ・能についてのお話(能楽堂の秘密)


2.ゲストトーク
  ・成田美名子(漫画家)−「描いてみてわかる能のこだわり」
  ・石塚しげみ(面打ち師)−「能面について」


3.能の実技
  ・実演 謡  「相聞」 柴田 稔
      仕舞 「鵺」  柴田 稔
          地謡  谷本健吾
              鵜沢 光
              安藤貴康
  ・能の体験講座
     謡「高砂」待謡
     仕舞、基本的な動き


4.懇親会(希望者のみ)

(長いです。覚悟して読んで下さい。)


ここの能楽堂ってば、表参道の駅から、様々のブランドショップを横目に歩き、PRADACARTIERの向かいにあるんですね。(全く縁のないものだらけ;苦笑)
入り口があまりにもさりげなくて、人が集まっていなかったら、うっかり通り過ぎそうでした。
中も、コンクリ打ちっぱなしの、おしゃれなつくり。
そこに、屋根付能舞台
斬新だわっ。(30年くらい前に作られたものらしいですが、当時としてはすごいセンスですよね。)


柴田先生が登場し、ざっと、能舞台の構造と、鏡の間や楽屋の仕組みなどを説明。
(大体は、各種能の本に書いてあることですので、省略します。)
面白いと思ったのは、シテにとっても、お調べが、その日の囃子方の調子を確かめる唯一の機会、ということ。
また、幕の内側は、シテが出る時には照明が落とされ、暗くされているのが、幕が上げられてパッと明るい舞台が目に飛び込んでくる。
その時の緊張感と快感が演じる側としては病みつきになるんだそう。
(この後実際に、橋掛かりを幕の内側から見たのですが、なるほど不思議な光景でした。)


面(オモテ、メン)は通常顔よりも少し上に、あごが出るようにかけるが、その意味は?という質問に、表と裏(面と役者)の関係性について話をされました。
(ここ数日の先生のブログネタですね。)
これも実際に面をいつものかけ方と、顔をすべて覆ってしまうかけ方をして見せてくださったのですが、後者は、何だか気持ちが悪い。
後ろに隠れた存在が見えなくて、上っ面だけの“モノ”の状態が、あごを出すことによって、生命力を持つように見えました。
更に、顔にべたっと被ってしまわないために、綿を額と頬骨の当たる部分に仕込んでおくのだそう。
利点としては、面と顔とに隙間がより多くできるので、声が出しやすい(通りやすい)。弱点は、視界が悪くなる。(ただでさえ小さな穴なのに、遠ざかれば更に見えません。)
これは好みの問題もあるそうで、今最も面と顔の距離が長いシテは(笑)・・・書いて良いのかなぁ?
距離をとったり、あえて、役者の身体の一部を見せることによって、より面との一体感が出るって、考えてみれば不思議ですね。


ところで、面をかけても声が聞こえるように、息を出さないで発声するのだとか。(一体どうやって??)
蝋燭の日の前で、炎を揺らすことなく謡うとか。
和紙を鼻先に張って落とさないように謡うとか。(←これじゃ漫画ですね。訂正しました。)
口元に和紙を置き、息で和紙が動かないように謡う、とか。
そんなスパルタも、昔はあったそうです。(笑)


そうそう、すごい人の話と言えば。
今の銕之丞氏の4代前の、華雪という方が、後見でもなかった「朝長」のシテの代役を出番の数分前(それこそ、もうワキが道行を語っている頃)に告げられ、一字一句間違えることなく務めた、という伝説があるそうです。
すごすぎます。


大体の話が終わったところで、足袋を履き、いよいよバックステージツアーへ。
鏡の間の鏡って、大きいです!そして無茶苦茶きれい!
オレンジ色の照明のせいもあるのかな?神秘的にも見えます。
きれいに映る鏡、です。(笑)


鏡の間の後ろ(鏡板の裏に当たります)はすぐ楽屋でした。
・・・狭い。
ここにシテ方ワキ方狂言方が一緒だなんて・・・プライバシーも何もないですね。(笑)
(通常は装束の間があり、シテ方ワキ方狂言方囃子方の楽屋がそれぞれ分かれているそうですが、ここの能楽堂は比較的小さいのでとのこと。装束付けも、幕のそばで行い、特に区切られてはいないそうです。舞台は2階にあります。1階はお稽古場。)
囃子方は3階。
隅には大鼓の皮を焙じるための、炭をおこす大きな火鉢がありました。(換気扇もちゃんとありました)
ここも狭くて・・・夏の暑さ、囃子方は一蓮托生ですか?


切戸口から、舞台へ。
最初に話してらした、板の継ぎ目で位置を把握するというのが・・・難しいですね。
足に集中すればわかりますけど。(だからすり足なのか。)
舞台の上からって、見所が良く見えます。
しかも3,4列目。(と言う事は、逆もその辺りがベストポジションなんですね。)
地謡座やら後見座やら、あちこちに座って、寝ていても見つからなさそうなポイントを確かめたり(笑)、足拍子を鳴らしてみたり。
ホント、やりたい放題、好き放題、楽しませていただきました。
(ええ、いいんです、能楽オタクby梅若猶彦「能楽への招待」で。)


休憩を挟んで、ゲストトーク
まず、成田美名子さん(漫画「花よりも花の如く」の作者)のお話。
どうして能を題材に漫画を描こうと思ったのか・・・「わかりません」(笑)。
登場人物とプロットが「降りてきた」のだそうです。
能の世界について何も知らなかったから、描こうと思った、描けちゃった、とも。
思い入れや、大変さが分からず、見たままに描いて、NGを出されることもあるとか。
「描きたいんだけど描けないんです〜。言えません〜〜〜。」て。残念。


次に面打ち師の石塚しげみさん。(以前柴田先生のブログで展覧会の紹介がありました。)
4種類の面(小面、万媚、泥眼、般若)を持ってきてくださり、それぞれの特徴、用いられる曲を説明。
また、面の製作途中の面(粗彫りの状態の)を持ってきて、製作工程を説明してくださいました。
面は「写し」が基本なので、各パーツのサイズはもちろん、傷までも忠実に写すのだそうです。
傷というのは、使用や経年変化によるものとは限らず、作者が意図的につける(つけたであろう)ものもあるとか。
「この辺りに傷があったら良いなと思うところに、あるんですよ。」
なんて仰ってましたけど・・・そう思うこと自体がないので、分かるような分からないような(笑)。
また、傷をつける事で、より生きてくるのだとも。
(漫画でも、ただ能面をそっくりに描くだけでなく、ちょっとした汚れみたいな線を入れることによってリアリティが出ると成田さん)
あと、「古さ」を出すために、色々工夫しているのだとか。
新しく作ったものを、わざわざ古く見せるなんて・・・妙な世界です。
実際に面を手にとって、顔に当ててみたりもさせて頂きました。
その際の作法も、しっかり説明して下さいました。
(袋からの出し方とか、持ち方とか。作用というより、余分な手の汚れをつけない、落とさないために、気を付けることですね。)
あんなにまじまじと面を見ることってないので(ガラスケース越しではなく)、ドキドキしました。
お手本となる面、「写し」たい、と思っても、そうそう貸し出してはくれないそうなので、虫干しの時にしっかり観察するのだとか。
私も虫干し、行ってみたいなぁ。


能の実技として、プログラムには謡「相聞」と、仕舞「鵺」。
と、その前に、朗読を専門になさっている飯島晶子さん(この方も以前柴田先生のブログで紹介されていました)が今回参加されているということで、急遽「相聞」の朗読をして下さいました。
「美人声」の専門家とあって、きれいな声でした〜。


ところでこの「相聞」、芥川龍之介の詩を節付けしたものだそうです。
11月18日の柴田先生主宰の「青葉の会」で能舞(装束をつけての舞囃子らしいです)を出すので、その宣伝を兼ねてとのこと(笑)。


朗読だと、ストレートに意味が分かる。「言葉」でイメージを思い描く。(そりゃそうですね。)
謡だと、「言葉」を単語としてちゃんと取り込めなくて(私だけ?)、音の連なり、その高低で、全体を把握していく。(宇多田ヒカルの歌に通じるものが・・・て、違うかな?)
そんな気がしました。


次に仕舞「鵺」。
余談ですが、数年前、薪能の途中で雨(しかも豪雨&雷)が降ったため見られなかった、ある意味思い出深い曲です。
鵺になったり、源頼政になったり、激しい動き。
あの、飛び安座?飛び返り?の、ガツンと落ちてくるのって、すごい。
跳んでなくて、落ちてくる
能って、重力を無視した動きをしますよね。


その後、「高砂」の謡を皆で。
柴田先生がお手本を謡い、その後に続けて3回くらいやったかな。
大きな声を出すのって、気持ち良い。(自分の音痴は棚上げしておいて。)
本当は仕舞もやる予定だったらしいのですが、時間が押しているので、省略。
先生が基本的なカマエを見せてくれました。
腰を入れて、上と下に引っ張られつつ、横にも張り出して、自分のスペースを確保して。
ううう〜ん。観念的。いや、やってみれば早いんでしょうね。
立っているだけでも(いや、立つんではなく、カマエるのですから)消耗しそうです。


その後、青学会館へ移動して、懇親会。
柴田先生は参加者一人一人に名前を確認し、どれくらい能を見ますか、と聞いて回っていました。
私は丁度、柴田先生の元でお稽古をされていると言うおじ様方(今回のサクラだそう;笑)と一緒になり、色々とレクチャーされました。
やはり、観るよりも、やってみるのが一番よく分かる、と。
(10回の体験講座の告知も頂きました。どうしようかなぁ、迷う〜〜〜。)


他、ホントに色々と。
柴田先生も、成田さんも、石塚さんも、休憩と言いながらもずっとおしゃべりしたり、ざっくばらんに質問に答えてくださったりして、ネタはまだまだあります。
長くなるので(十分長いですが)この辺でやめておきます。


3時間半くらい、びっしりと、ぎっしりと、楽しかったです。
ありがとうございました。(先生方&ここまで読んでくださった皆様)


追記(7月5日)
柴田先生から御指摘を受けまして、一部訂正いたしました。