獅子虎傳阿吽堂vol.2〜ヤハイヤ〜@世田谷パブリックシアター

能楽の大鼓方亀井広忠さんと、歌舞伎の田中傳左衛門、田中傳次郎さんの3兄弟がご出演されるもので、ワークショップの要素の強いものでした。


ちなみに前回(vol.1)の感想等はこちら→ http://d.hatena.ne.jp/kazashi/20050917/1127016660

1.囃子レクチャー
亀井広忠田中傳左衛門、田中傳次郎


2.歌舞伎囃子〜立廻り奏法〜
田中傳左衛門、田中傳次郎
田中傳八郎、田中傳九郎、田中傳十郎
三味線 杵屋五三吉次、杵屋五三吉雄


3.一調一管 安宅〜延年・滝流〜
大鼓 亀井広忠
笛  一噌幸弘
謡  大島輝久


4.獅子
小鼓 田中傳左衛門
大鼓 亀井広忠
太鼓 田中傳次郎
笛  一噌幸弘


能舞台に橋掛かりが左右と中央後方へと3本かかっていて、おそらく『狂言劇場』のままのセット。


1.囃子レクチャー
この公演の名前の由来、前回の“獅子”“虎”“傳”に加えて、阿吽堂の“堂”は“太子堂”が近いので、というのが判明。また、「獅子団乱旋の舞楽の砌」という『石橋』の詞章も想定しているとのこと。(やっぱり、何か聞き覚えがあると思ってました。)


小鼓を傳左衛門さんが説明。前回聞いたような話でしたが、歌舞伎では“東京革”“奈良革”(白っぽい)を使うとの事(どちらが薄いのだったか・・・忘れてしまいました)。また、組みあがっていた小鼓を一度ほどいて、組みなおして見せてくれました。そして、「チ」「タ」「プ」「ポ」と4つの音を打ち分け。開演前から舞台上に置いてあった、調子を整えていない小鼓も打ってみてくれましたが、軽い、スカスカした音に聞こえました。


次に大鼓を広忠さんが説明。手に風呂敷包みを持っていたのでもしや・・・とは思ったのですが、こちらも組むところから見せてくれました。体力勝負、力仕事、と言っていただけに、組みあがる頃には汗びっしょりになっていました。
ちなみに、では大鼓を組んで締め上げる事を「締める」というのに対して、歌舞伎では「あげる」と言う事、また、では革を炭火の前で乾燥させる事を「あげる」と言い、歌舞伎では電熱器を使用し「焙じる」と言うそうです。これはお互い知らなかったらしく、「へぇ〜〜〜」と言い合っていました。(時々、普通の兄弟の会話になってしまうのが面白かった。)大鼓方は革の準備のために2時間前には楽屋入りしなければならないため、9時からの舞台は勘弁して欲しいと・・・「それはクレームですか?」「クレームです」(by長男)と仰ってました。(笑)
締められた大鼓を素手で打ったところ、いつもと音が違う?と思ったのですが、指革をはめて打つと、あの音でした。指革は指を守るのと、音を良くする大きくする役割もあるのだとか。また、締められていない(舞台上にあった)大鼓からは、鋭さの無い、ボヤっとした(?)音がしました。音は一応4つ、とのこと。鳴るか鳴らないか押さえるだけの音と、小さく、中くらい、大きい音。(でも通常は大きい音と小さい音の2つ)


最後に傳次郎さんが太鼓の説明。こちらも組むのは大変だそうです。「襦袢にならないと・・・それはお見苦しいので」と仰ってました。表革の中央に丸く鹿革が張ってあって、そこに当てる音と、そうでないのとは音が違いました。また、撥が太いのは能と同じだけれど、歌舞伎は細いのも使い、落語の出囃子などにも使われるとのこと。太鼓は打つ時の姿を大事にしている、と。あの肘を張った構え方や、撥を肩に担いで打ったりするのは、見た目のためだけだそうです。こちらもやはり音は4つ大鼓と同じで、鳴らない音と、小、中、大。


デモンストレーションとして、『道成寺組曲』から『祈り』(地ノリ?)を、お互いを見ないように(小・太がそれぞれ外側を向いて)座って演奏してくれました。リハーサルも打ち合わせもなかったということですが、バッチリでした。さっきまでニコニコ話していたのが瞬時にきりりとなるのは、さすがプロ、と思いますね。(当たり前か)


2.歌舞伎囃子〜立廻り奏法〜
歌舞伎組のお2人が舞台にのこり、レクチャーの続き。
普段は黒御簾の中で演奏される様々の打楽器の演奏をするとの事。舞台上に置いてあった、大太鼓(協賛“宮本卯之助商店”と傳次郎さんが強調(笑))で、「水」「海」「雨」「雪」「風」の音をそれぞれ表現してくれました。とても抽象的なのですが、三味線が入ると歌舞伎っぽくなるんです。「水」なんて、三味線が加わるととたんに隅田川の流れのようになったのにはびっくり。どれも、そのものの音(「雪」は音が無いですし)ではなく、それが何かにぶつかった音(波が岩にぶつかるとか、雨が傘、雪崩、風で戸が開く)だというのが興味深いです。けど、それだけ聞いていても分かりにくいので、やはりお約束の世界なのでしょうね。(だって、より具象化するなら、竹篭に小豆を入れてザザッと揺らした方がよほど海の音ぽいので。)なるほど、効果音にも色々あるのだと、勉強になりました。


小鼓&太鼓が2人、大太鼓、笛、パーカッション(笑)で歌舞伎の、祭囃子から喧嘩、立ち回りの様子を表現する場面を演奏。パーカッションと書いたのは・・・一人で大鼓、ドラのような大きい鐘、小さい鐘、鉄琴のようなもの、ハンドサイズの小さい鐘を打っていたので。
歌舞伎では、小鼓がリーダーシップを取っているように思いました。掛声の雰囲気から。また、大鼓の軽さは、能とは段違いです。笛は4・5本を使い分けているのにびっくり。
情景描写に富んだ、いかにもザ・歌舞伎!(by傳次郎「メタルロックと同じ」「縦ノリで聞いてください」とも)というような演奏はとても面白かったです。拍手が鳴り止みませんでした。


3.一調一管 安宅〜延年・滝流〜
前半とは打って変わって能モードです。これは以前大倉源次郎さん、藤田六郎兵衛さんたちと作った物を今回は幸弘さんバージョンで、と広忠さんが説明していました。
謡は喜多流の大島輝久さん。いい声です。聞き取りやすいです(・・・どういうレベルの話と我ながら呆れますが)。一度、能で見たいと思う人です。
大鼓の一調は、正座でなく、片膝を上げた姿勢で打つのですが、それが、「やるぞ」という感じでやたらカッコイイ!と個人的に思う(安定しなくて打ち難いらしいですが)。音が拡散して、響きが少ないのが残念。また、何となく、ですが、声の調子が悪そうな気がしました。音響のせいかな?
一噌幸弘さんの笛て、流れるようだな、と思います。能管独特の音の歪みを感じません。
3人とも個性が強烈過ぎてどこに集中していいのやら(耳も目も)、困りました。う〜ん、一体感を感じられなかったのが残念。(一調ってそんなものかな?)


4.獅子
実はこの3兄弟で『獅子』をやるのはまだ5回目なのだとか。もっとやっているかと思ってました。(「また『獅子』かと思ったのに、そんなもんですか」と当人達も意外な様子でした)けど、能の場合だと、全く同じメンバーで『獅子』をするのってどれくらいあるんだろう?
ご兄弟で、声質も似てるんですね。獅子の吼え声が、重なって、こだまの様で。露の落ちるまでの間に、小鼓の調緒をギュッと握り締める音が聞こえたのが、良かったなぁ。あれも効果音のうち?(能は間を楽しむ歌舞伎は間を埋めていくイメージなので)
若いなぁ、という感じの、勢いのある、演奏でした。興奮しました。
こちらも拍手が鳴り止まず、カーテンコールが(笑)。能楽堂と違って、思う存分こちらの感動を伝えられるのがこういうホール企画の魅力かな、と思ったりしました。


(1つだけ残念だったのは、近くに私語をしていた御夫婦がいたこと。思わず殺気立った目で睨んでしまった。)


「邦楽コンサート」となっているものの、前述のとおりワークショップ色の強いものでした。物慣れていなさそうなトークはツボですし、演奏には満足です・・・が、構成や演出はかなり手抜きですし、企画意図もやや不明(爆)・・・と思いつつ、また行ってしまうのだろうなぁ。面白いので。能を見た時の満足感とは異なり、ライブに行って楽しんだ、という感覚に近いです。(ああ、これが趣旨か・・・て自己完結してしまった。)


もっともっと書きたいことはあるのですが、そのツボは独りよがりの楽しみに近いので、自粛。