三響会 特別公演@新橋演舞場

サブタイトル『伝説と伝承』ということで、通常公演のような歌舞伎と能のフュージョンではなく、同一曲を各々の本来の姿で見せるという趣向だそうです。
昼と夜の2公演、同じ番組で、更に昼の部は、三響会倶楽部に入ってる方は招待(
無料!)だったそうです。
よ、太っ腹っ!

1.囃子競演		
『一番太鼓』  田中 傳左衛門

『宴』  林 英哲
		
『めじは』	
     林 英哲
	一噌 幸弘
	田中 傳次郎
		
魔界転生 島原の乱・肌矢立・天草四郎・死・柳生十兵衛
囃子	田中 傳次郎、田中 傳八郎
尺八	藤原 道山
筝	市川 慎
笛	福原 友裕
三味線	今藤 長龍郎、今藤 政十郎、今藤 龍市郎、杵屋 勝国毅、豊澤 長一郎
	
『獅子』
	亀井 広忠
	田中 傳左衛門
	田中 傳次郎
	一噌 幸弘
	林 英哲
		

2.『藤娘』
藤の精	中村 七之助
三味線	今藤 政十郎、杵屋 勝国毅、今藤 龍市郎、杵屋 勝正雄、今藤 長龍郎
唄	杵屋 利光、杵屋 巳津也、杵屋 巳之助、今藤 龍之右、松永 忠次郎
笛	福原 寛
小鼓	田中 傳九郎、田中 傳左衛門
大鼓	田中 傳八郎
太鼓	田中 傳次郎
陰囃子	田中 長十郎、田中 佐英
	
	
3.歌舞伎『安達原』
老女岩手 実は安達原の鬼女	市川 亀治郎
東光坊祐慶	中村 梅枝
強力太郎吾	市川 段四郎
(小鼓が田中傳左衛門となる以外は藤娘と同じ)
		

4.能『安達原』
シテ	片山 清司   (昼の部は 観世 喜正)
ワキ	殿田 謙吉
ワキツレ	御厨 誠吾
アイ	野村 萬斎
大鼓	亀井 広忠
小鼓	成田 達志
太鼓	大川 典良
笛	一噌 幸弘

(後見・地謡は省略)


以下、状況説明と感想。長文です。(苦笑)


1.囃子競演
『一番太鼓』
傳左衛門さんが、儀式っぽい雰囲気で、撥を動かして文字を書くような動作をしてから、大太鼓を打つ。予兆とか、予鈴とか、そういうイメージ。


『宴』
林英哲さんは、大太鼓奏者として日本のみならず世界中で活躍されている方だそうです。打つ姿を見て、そういえばTVで見たことあると思い出しました。
客席を背に、上半身をはだけて、大太鼓に向かって立ち、撥を大きく掲げて全身で打つ、お祭りのようなスタイル。(ちなみに、傳左衛門さんは、紋付袴で、大太鼓の横に立って打っていました。撥も細く、長い。)原初的な、地球の胎動を感じる響き。ずんずんと体に振動が伝わるのが心地よかった。


『めじは』
林さんの大太鼓に、一噌さんの笛が加わり、さらに傳次郎さんの太鼓が徐々に加わっていきました。大太鼓の音プラス笛のときは「ネーチャージオグラフィック」なんだけど、太鼓が入ると、人間くさくなるのね。能では、太鼓が入るとむしろ無機的で、超自然的になるのに・・・不思議な感じがしました。
ところでこれって、もしかして、一噌さんの作った曲でしょうか?旋律も面白いし、何よりもテクニックがすごい!!能よりも、こういう曲のほうがしっくりくるような気がする(←余計なお世話)。
もう座ってられない、うがぁーーーと叫んで、走り回りたい、踊りだしたい感じ(←やっちゃいけません)。いつか、ライブ行こう。


魔界転生
ワーグナーか?ドビュッシーか?てくらい、叙情的で、洋楽的。マイクで音を拾ってエコーをかけてるので、映画のサントラみたいにも聞こえる。白塗りの美少年が今にも宙吊りで現れそうでした(←あくまで妄想)。筝の音が、ピアノみたいにすっきりしていたのが印象的。


『獅子』
さっきのドラマチックな音楽から急転、能チームによる生音での演奏。ああ、能って地味〜〜〜と、思ってしまった瞬間(笑)。それが徐々に林さんの大太鼓や、三味線などが加わっていき、豪華絢爛、元禄文化の花開く、という雰囲気の派手派手な獅子に。


2.『藤娘』
真っ暗な舞台にパッと照明がつき、眩しさに目が眩む中、見えてきたのは、松の木にぶら下がる巨大な藤(笑)と、藤の精。うわっ、きれー、と思わずつぶやいてしまった。
そしてこの藤の精が、んもぉ〜〜〜、可愛いの♪手にした藤の枝を振り振り踊って、木の陰へ隠れたと思ったら衣装を変えて現れ、客席の左右正面へご挨拶するのに、胸キュンです(←誰だオマエ)。お酒を飲んで、ほろほろ酔っ払っちゃう姿は、清潔感のある色っぽさで、これまた可愛い(←すっかりオヤジ目線)。こんな子に「パパ」なんてしなだれかかられたら、何でも買ってあげちゃいそう(←どこか間違った妄想)。


3.歌舞伎 『安達原』
安達原で、宿を乞う祐慶に、主の老女は貧しい家なのでと断るが、それでも構わないと言う強引な祐慶。糸車を見つけ、繰って見せて欲しいと頼むわがままな祐慶。老女が、寒いので薪となる木を山へ採ってくるといなくなった隙に、寝室を覗いてしまう、駄目っ子の祐慶(最初に覗いたのは太郎吾だけど)。老女は鬼女となって現れ、決して見てはならないという約束を破った祐慶達に襲い掛かるが、祈り伏せられてしまう。


ストーリー、登場人物は能とほぼ一緒。装束は、祐慶が大口袴に法被で武者風、強力は狂言袴をはいており、これも能っぽい。始まり方も、笛のヒシギや大小のかけ合いが、能っぽかった。台詞や唄の台本は、「〜候」だったりして能っぽいのだけれど、発声や、抑揚が違う。太郎吾(能では狂言方)が、大活躍でした。物語の進行自体に重要な役割を果たすのもそうですが、最後の鬼女との戦いでも、太郎吾が数珠を揉むと、祐慶がするよりもダメージを与えていたようです(笑)。戦いながら、鬼女も、祐慶も、時には太郎吾も併せて見得を切っているのが、さすが歌舞伎。そして最後は、奈落へ飛び込むのにびっくり!
全体に暗いトーンで、先の藤娘のような華やかさや派手さは少なく、こういうのもあるんだ、と発見。
全然関係ないのですが、歌舞伎では後見の移動は、膝行なのですね。そして横向きに座ってる。へぇ〜〜。


4.能 『安達原』
この名前は観世流だけで、他流では『黒塚』というそうです。「安達原の黒塚に籠れる鬼の住処なり」なんて言ってました。
前シテはグレーの唐織を腰巻にした上に、グレーの水衣で、品行方正、静かに暮らしております〜という雰囲気。後シテは、赤の鱗箔に、白(金?)の大口袴、白い鬘。ちゃんと薪を背負ってくるのが、いじらしいというか、細かいなぁ、と笑っちゃいました。面は、白い痩女(前シテ)と、肌色の般若(後シテ)だったのだけれど、ライトで光って、表情が画一的に見えてしまうのは、仕方ないかな。
片山清司さん、整った動きで、これまた好きなシテの一人です。前シテが花道を足早に去っていくのですが、その運ビ、まったくブレません(え、当たり前?)。後シテが杖を振り上げたり構えたりするのも、きちっ、きちっと、パズルのピースが正しい場所に収まるみたいで、無駄がない。隙がない。見ていて安心感があります。かといって無機的なわけでも、熱がないわけでもなくて、形の整った、濃厚なお豆腐のよう(←意味不明)。
それだけに、シテの声はマイクで拾っていたようで、どこから聞こえてくるのか分からない違和感がつきまとうのは、非常に残念。
狂言は、サービス満点、というくらいに面白かった。「幼い頃から人の言う事を聞かない悪い子だも〜ん」と言い放って、祐慶の目を盗んで(3回くらい見つかりますが)、部屋を覗いてしまうのだから。こういう間狂言だと、萬斎さんの、やりぃ、という得意そうな表情が似合うと思う。・・・しかし、能楽堂でもあのテンションなのだろうか?
囃子方、ホールだとお互いの間隔が広くて、やり辛くないのかな?ま、その辺は百戦錬磨の方々なので、慣れてらっしゃるのでしょうが。
小鼓の成田さん、いい声〜。つるりと滑らかな白磁の花瓶みたい。
地謡は、気のせいかもしれないが、混成チーム(同じ観世ですけども)?観世喜正さんの声がやたら目立ってしまい、声質なんかのバランスもあまり良くないような〜。



色々文句書いて、なんだかんだ言いながらも、十分楽しんできました。
そして結論、「やっぱり能が好き」。
文句があるなら、能楽堂で見ろってことですね。(笑)
能って、能舞台のあの空間で必要十分、過不足なく出来上がってるんだなぁ、とつくづく思いました。