狂言劇場 その参 Aプログラム@世田谷パブリックシアター

狂言を劇場でやるからには、能楽堂とは違った見方をしたい、と思い、あえて最上階にチケットをとりました。

語『八島』 竹山悠樹


小舞『景清 後』 深田博治


『月見座頭』
座頭  野村万作
男   野村萬斎


『茸』
山伏  野村万之介
何某  石田幸雄
茸   月崎晴夫
    竹山悠樹
    時田光
    深田博治
    高野和
    岡 聡史
    破石晋照
鬼茸  野村萬斎


地謡・後見は省略。また、『茸』の一般公募参加者6名についても省略させていただきました。)


語『八島』
能『八島』(屋島とも)の間語です。平家方の悪七兵衛景清が源氏方の三保谷四郎の鐚(しころ;兜の首を守る襞の部分、だと思う)を引きちぎったという話を語る。


語り手にはスポットライト。舞台情報にスクリーンが下り、語りにあわせて詞章が映し出された。
明朗な、くせの無い、けれど狂言らしい抑揚のある語りは、聞きやすい。言葉がちゃんと意味を持って伝わってくる。
希望としては、声にもう少し力強さが欲しかったかな、と思った。


関係ないですが、国語(古典)の授業なんかで、先生もこういう語り方をしてくれたらいいのに、と、いつも思う。
無理でしょうけど。


小舞『景清』
これも悪七兵衛景清と三保谷四郎の鐚引きの部分を舞で表現したもの。
(舞だけを抽出して演じる事を、能では仕舞、狂言は小舞と言うようです、多分。)


入場して手渡されたチラシに、謡の詞章が書いてありました。が、これも聞きやすいし、何より舞がとても具象的(当て振りというのか?)なので、分かりやすい!
ダイレクトにシーンを演じてくれますし、動きも縦横無尽、多様でした。中には型もあるのでしょうが、全体としてはパントマイムのように、楽しめました。
能とは全然違うなぁ。(能の仕舞はあくまで雰囲気・・・?)


『月見座頭』
中秋の名月の夜、盲目の座頭が、月見に出かける。そこへ洛中の男がやってきて、二人は意気投合し、酒宴となる。和やかに別れた後、男は急に気を変え、座頭に言いがかりをつける。


今回、これが目当てでした。
舞台4隅、また橋掛かりの上と舞台脇に薄が置かれ、虫の音がし、秋の風情。(今は何月?)舞台上は明るく照らされ、まさしく満月の夜、でした。
そこへ万作さんの杖の音。(『川上』の時も思ったのですが、この杖の音、好きです。静かな安定感があって。)盲目である事を哀しむことなく、無邪気なに月夜を楽しみ、虫の声に聞き入る姿。月見客との諍いも、微笑ましい。
洛中の男との酒宴は見物でした。(万作・萬斎親子共演は最近ではあまり見られないのでは?)お互い、舞い、謡い、とても和やかで打ち解けたようになり、別れるのです。
ああ、このまま終わってもいいのに、というくらい、観ているこちらも楽しくなってきました。
のに!!
あのバカ男。ひどいヤツ。(あくまで、劇中の人物に対してです。)
もう一慰みしよう」とか何とか言って、座頭を突き飛ばすのです。萬斎さんの声も雰囲気もがらりと変わって、本当にイヤなヤツになりました。(笑)
座頭はそれが先の男と同一人物だとは知らず、色々な人がいるものだ、と、家に帰るのですが・・・。


ぎくり、としたのは。
男の、豹変とも言っていい変化に、身に覚えがあるように思えた。
照明が若干暗めになり、それと同時に、ぽとりと心の中に墨を落とされたような、シミが浮き上がってきたような寒々しさ。視界が暗くなっていくのとは対照に、心の暗部にスポットライトが当てられた気分になりました。
座頭に対しては、散々な目にあってかわいそう、というのとは少し違う。振り回されるしかない運命を、すんなり受け入れてしまっているのが、哀れ。上から、全てを見通しているから、そう思うのかもしれないけれど。


不条理な、あんまりな話ですが・・・それが結局人の世かなぁ?


『茸』
何某の家に巨大茸が生え、山伏に駆除を依頼する。しかし、山伏が祈れば祈るほど、茸は増えてきて、最後には・・・。


万之介さんの山伏の頼りなさが、いい感じでした。
見ていて思ったのは、着物、袴、そして笠まで同じ色というのは、かなり不気味。
そういう、トータルコーディネート(笑)された茸たち、しかも黒・水色・緑・赤など色とりどりなのが、ちょこまかとした動きでわさわさ出てくるのです。
あんな大きい松茸なら、いいじゃん・・・というわけにもいかないですしね。
う〜ん、もぐらたたきのような、無意味なことにムキになってしまう、そういう楽しさでした。
本当は、かなりブラックユーモア的な要素もあるのでしょうが。今回は、そういう演出は無かったと思いますので、これくらいで。



やはり、上から観ていて正解。特に『月見座頭』。
舞台の美しさや、照明の工夫も、下からでは分からないでしょうし。(橋掛かりが3本プラスαあるのですよ!)
ただ、Bプログラムに関しては、能楽囃子があるので、考え物ですが。上だと音が響きすぎちゃって。(なので、チケット取るのやめました。)
ホールでの能・狂言の仮設能舞台や、安易な照明は好きではないのですが、ここは野村萬斎氏が芸術監督を務めているということもあり、能舞台も本物です。照明も、きちんと演出を考えているのが分かります。
色々な意味で、思い入れのある『狂言劇場』です。