子供時代の甘苦い日記のような物語が、これ。


夏の庭―The Friends (新潮文庫)

夏の庭―The Friends (新潮文庫)



“死”への好奇心、というか、“死”がどういうものか分からなくて、近所のおじいさんを見張る事にした、3人の小学生。こっそりと覗き見をしていたはずが、いつの間にかおじいさんと友達になり、お互い心を開いていく。少年たちはおじいさんから、昔の生活の知恵や、戦争の話を聞く。おじいさんも、それまで“生きているだけ”の変化の無い毎日から、少年たちと関わる事で楽しそうに、元気になっていく。そして・・・。


何年か前に夏休みの読書感想文課題図書になったような、優等生的な本(←偏見?)ではありますが、面白いです。


湯本香樹実さんの物語の主人公は、毎日を“ちゃんと”生きている、子供達。
遊んで、勉強して、喧嘩して、笑ったり、泣いたり。
子供なりの真剣さで、物事に真っ直ぐ向き合って、色んなことを考えている。
そんな、物語。
おじいさんが語る戦争の話は、以前聞いた、やはり戦争に行ってきた人の話とダブって、苦しい。
そしてラスト、登場人物の少年と同じように、驚き、呆然としてしまった。


一時期、泣きたい時にはこれを読んでいました。


もうひとつ。
同じく湯本香樹実さんで、主人公は小学生の女の子。


ポプラの秋 (新潮文庫)

ポプラの秋 (新潮文庫)


父親の死により、母親とおんぼろアパート『ポプラ荘』へ引っ越してきた少女。母の負担にならないようにと頑張りすぎるあまり、心も身体も弱ってしまう。少女は管理人のおばあさんのところに出入りするようになり、様々の事件を通して、初めは恐いと思っていたおばあさんに心を開き、アパートの住人とも親しくなっていく。


物語自体は、そのアパートのおばあさんが亡くなった知らせを受けるところから始まります。
そのお葬式へ行って、様々の秘密(成長した彼女自身や、おばあさん、父親、母親の)が明らかになって・・・やはり、ボロボロ泣きました。
ストーリーに、というより、この少女が自分にシンクロして。
そして、そんな娘を持った親の不安を、知ってしまって。


この2作品に共通するのが、老人と子供の交流。
どちらも社会的弱者であり、近い存在だから、仲良くなれる、というような事を宋田理氏の講演で聞きました。(随分昔のことですので、今は違う見解を持ってらっしゃるかもしれませんが。)
宋田氏の著書でも、大体、老人と子供が結託する展開なのだそうです。(『ぼくらの7日間戦争』も。映画では大人に対する子供達の反逆という構図になっちゃってますが、原作の意図は違うのだそうです。)


命のつながりとか、伝える事の大切さを描いていて、そういう意味では、梨木香歩さんの作品にも共通します。
もっとも、梨木さんの本に出てくる老人は、先導者的な憧れの存在というポジション。
そして、誰もが持っている“傷”と、それと向き合うことによる成長がテーマ。(と、勝手に思っています)
対して、湯本さんは、もっと普通の、“生きる”ことの積み重ね、その難しさと、大切さ。
キラキラしい子供時代と、かつて子供であった老人達をリンクさせる事で、“日常”に潜む落とし穴の警告。(“老い”もその一つということ?)


センチメンタル?
読後感は清々しいです。